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7月 2009年 フレイザー・カウイーNYSE Liffe エグゼクティブダイレクター

日米市場間で金先物のアービトラージ取引を 〜まずは先物会社や投資顧問会社の自己トレーダーから

6月26日、NYSE Liffe と東京工業品取引所(TOCOM)が日米の取引所としては初めて、金先物市場間のアービトラージを振興するための合同セミナーを開催し、国内の商社・商品先物会社のトレーダーらおよそ100人ほどが集まった。NYSE Liffe は、80年代に英国でロンドン国際金融先物取引所(Liffe)として設立された。当初は金利先物取引など金融商品の先物を取引していたが、90年代半ば、砂糖やゴムなどを取引するロンドン商品取引所(LCE)を買収して、ヨーロッパ最大の総合先物取引所となった。90年代後半にはヨーロッパの証券・先物取引所連合であるユーロネクストと合併。グループ唯一の先物市場として拡大し、ユーロネクストとニューヨーク証券取引所(NYSE)が合併してからも、欧米の先物・オプション取引所のトップ3(CME、Eurex、NYSE Liffe)に位置している。
 同取引所が昨年、米国に設立したNYSE Liffe US が最初に行ったのが、CMEが買収したCBOTの金と銀の先物・オプション市場の買収だった。わが国でも今、証券・金融・商品の各市場で現物と先物を合わせた「総合化」が検討されているが、NYSE Liffe の連合とその今後のマーケティング戦略は、今後の総合取引構想を練る日本の取引所関係者にとっても大いに参考になるに違いない。今回のインタビューでも、そんなNYSE Liffe のビジネス戦略の一端が垣間見られたのだが、何はともあれ、来日した NYSE Liffe エグゼクティブダイレクターのフレイザー・カウイー氏に、目下の NYSE Liffe の現状と、TOCOMとのアービトラージを推奨する理由などについて聞いた。

フレイザー・カウイー氏
フレイザー・カウイー

ロンドン、NY、シカゴでもTOCOM紹介セミナーを共催へ

まず、NYSE Liffe についてお聞かせ下さい。

NYSE Liffe はNYSEユーロネクスト・グループの一員です。グループで最もよく知られているのはニューヨーク証券取引所でしょうが、NYSE Liffe はヨーロッパで先物とオプションの取引所としてよく知られており、他にも、パリやアムステルダム、ブリュッセルにも証券取引所があります。NYSEユーロネクストはそれらの取引所の傘であり、現物株から派生商品まで様々な市場を抱える複合体であるといえます。

まさに国境のない総合取引所だといえますね?

その通りです。面白いのは、NYSEという名前を聞くと、誰もが現物株市場の収入が最も大きいと思われるのですが、実際にはグループ全体における米国現物株の売り上げは11%しかなく、NYSE Liffeを中心とする先物・オプションなどのデリバティブビジネスが24%の売り上げシェアを占めていることです。

総合的な取引所の創設は、日本でも話題になっていますが、さすがに国内だけでなく、欧米各国にまたがる同盟・合併までは話題になりません(笑)。大変な作業ですね?

私の所属するビジネス開発グループは、グループ取引所以外の人々との関係を作っていく仕事ですが、現在は、日本、中国、インド、南アメリカ、中東、東ヨーロッパなどともビジネスを広げていく作業を進めています。NYSEグループの方針は、各国の取引所と共に仕事をするということです。例えば、それぞれの国の取引所の顧客に、相互にアクセス・チャンスを提供し、それぞれの上場商品を、互いにマーケティングし合ったりすることもその方針の一つです。今回、私たちは、TOCOMと共に、NYSE Liffe の金・銀、ミニ金・ミニ銀を紹介するセミナーを開催させて頂きましたが、次回は同じものをロンドン、ニューヨーク、シカゴでも開催したいと考えています。その時には、TOCOMの金市場を、そうした地域のトレーダーたちに紹介するお手伝いを NYSE Liffe がするわけです。

1年後にはすべての上場商品を一つのプラットフォームで取引する

NYSE Liffe US の貴金属市場は、もともとはCBOTのものでしたね。

そうです。がNYMEXを買収した時に、すでにCBOTの貴金属市場もありましたから、独占禁止法のために売却が命じられ、それを NYSE Liffe が買い取りました。おかげで、米国での取引所設立と、商品多様化の足がかりが出来たことになります。NYSE Liffe US では、今年第3四半期に、株式派生商品であるMSCI指数先物も上場しますし、今後、現物、先物、OTC取引などを全般的に清算する清算会社も設立する予定です。

総合的な取引所グループとして、今後、NYSEユーロネクスト全体の戦略にはどのようなものが?

NYSEユーロネクストグループは、今後1年の間に、一つのプラットフォームで取引できる体制を整えます。実現すれば、ヨーロッパ株、米国株、先物、オプションなど、すべての上場商品を、世界のどこからでも一つのプラットフォームで取引できるようになります。東京のトレーダーも、ソフトウェアをダウンロードすれば、NYSEユーロネクストグループすべての取引所の商品が取引できるようになります。つい先日、私たちは、中東のカタールでもマーケットを開きました。グループ以外のマーケットでも、このネットワークに接続することができるのです。

それは凄い。ですが、一応、システムは同じでなければならないのでしょう?

システムが異なっていても、接続できます。それによって、マザーマーケットであるかないかに関わらず、流動性を共有する取引所リンクを世界中に広げることができるのです。例えばTOCOMについても、テクノロジーは異なり、MOU(情報交換協定)も結んでいませんが、MOUがなくても、実際にサポートしあうことによって、その会員や投資家に利益をもたらす仕事ができます。今回、TOCOMと共に提供しようとしているのは、その意味でユニークで、実用的な運用戦略だといえるでしょう。

日米間のアービトラージですね?

そうです。NYSE Liffe USのミニ金先物取引の取引単位は33.2トロイオンスで、TOCOMの標準品取引の1キロとほぼ同じです。値動きも非常に似ています。とはいえ、100%同じではありません。そこに投資チャンスがあるのです。

まずは先物会社の自己トレーダーや商品投資顧問から

日米間の金アービトラージというだけなら、CMEの金とのサヤ取りでも構わないと思うのですが、CMEの金と NYSE Liffe US の金とはどこか違うのでしょうか?

NYSEグループではまず、NYSE Liffe US が金とミニ金の先物を取引していますが、このほか、NYSE ARCA、NYSE AMEX では金ETFオプションを、NYSE AMEX では金ETFも取引しています。そして、これらの市場間で、例えば金ETFと金先物を取引する場合には、最大70%まで、証拠金が割引されるのです。割安のコストで効果的にアービトラージができることになります。そして、これらすべてが、同じプラットフォーム、一つの清算会社で清算できるのです。

現物と先物を股にかけた取引ができるということですね。手数料は?

NYSEの会員であれば取引所手数料は無料です。会員以外の顧客手数料もCMEに比べて割安です。例えば標準金手数料は片道1ドル(約100円)、ミニ金先物は75ドル(約75円)です。

日米間の手数料も割安になりますか? それと、TOCOMとのアービトラージでも、証拠金割引はありますか?

先ほどの取引所手数料は全世界共通です。証拠金につきましては、清算会社が異なるので、割引は残念ながらすぐには無理でしょうね。

今後の国際化、連携に期待ということですね。それより、日本の個人投資家にとっての問題は、まず、日米のアービトラージを受けてくれるブローカーが少ないということなのですが?

確かに、日本では個人投資家が海外先物市場で取引するのは簡単ではないので、当面、TOCOM=NYSE Liffe US のアービトラージについては、各ブローカーの自己取引部門のトレーダーや商品投資顧問など、専門トレーダーの方々にご利用いただくことを想定しています。日本にもこういうプロトレーダーは数多くいらっしゃいますし、それを受託する NYSE Liffe US の会員も、ニューエッジやMFグローバルなど、すでに進出しています。実は、NYSE Liffe US の会員権は無料であり、しかも会員は取引所手数料も無料ですから、こういうトレーダーを抱える会社にはまず、会員になっていただければよいと思います。事実、日本でもアストマックス(証券・商品投資顧問)など2社がすでに会員になっています。

会員資格は?

申請書、直近の決算書、会社登記簿など幾つかの書類はありますが、それほど難しいものではありません。

新システム、ISVが今後の国際間アービトラージの鍵になる

NYSE Liffe US の金の流動性は大きいのでしょうか?

今回、TOCOMの金標準品取引と組み合わせてアービトラージを仕掛けることをお勧めしているミニ金は、米国のミニ金市場では99%のシェアといっていいと思います。現在、NYSE Liffe 本体では1日400〜500万枚の取引があります。その内、金利先物は200万枚に達しますが、中でも重要なのは日本からの注文です。昨年4月に日本に事務所を開設したことも手伝って、昨年度の東京からの注文は前年度比で5割以上増の2000万枚以上に達しました。金利商品の日本からの取引は、CMEよりも大きかったのです。つまりヨーロッパものの金利先物については、日本の投資家は米国市場よりも英国市場を多く利用していることにあります。一般的に、先物取引は期間投資家中心のマーケットです。例えば Euribor 先物の取引は1単位100万ユーロと個人向けではありません。しかし、NYSE Liffe US のミニ金は米国でも個人投資家に活発に取引されています。個人投資家に限りませんが、日本からも、また台湾からも注文が来ています。私が朝7時にスタッフに聞くと、夜間に多くの注文が入っているのです。それはすべてアジアからの注文です。ミニ金はいずれ、日本の個人投資家の方々にも取引されると思います。ただ、まずは先物会社の自己ディーラーに試していただき、それを個人投資家の方々にも見て、知っていただく、というステップがよいのではないでしょうか。

日本の個人投資家にも、すでにTOCOMの夜間取引を手掛けている投資家がかなりいます。多分、米国市場にも関心を持つと思います。

実は、私たちが今回、このタイミングでセミナーを開いたのも、まさにその点がありました。TOCOMが新システムになり、ISVを接続したおかげで、ISVを通じて NYSE Liffe US での取引も簡単にできるようになりました。日米間のアービトラージも、技術的には簡単に出来るようになったのです。また、米国のトレーダーが、同じISVの発注システムを使って、TOCOMを利用することも簡単にできるようになりました。その意味で、日米間のアービトラージは、投資家の相互交流のステップになると思います。

それを提供できるブローカーも育っているのでしょうか?

こういう機会をとらえて参入するブローカーは増えると思います。今のオンライントレーダーは、株しかない、商品先物しかないという取引所やブローカーではだめで、海外をも含めた総合的なサービスを求めています。金だけでなく、様々な市場を利用したアービトラージ運用の機会を提供できるブローカー選びも、今後の投資家の条件の一つではないでしょうか。

ISVを通じて、欧米の投資家が、日本の金を売買する機会も増えると思いますか?

まさに、そう考えるからこそ、今度はロンドンや米国でもセミナーを開くのです。NYSE Liffe USには今215社の会員がいますが、その内米国に本拠を置くプロップハウスのトレーダーたちは正確にはわかりませんが、NYSE Liffe だけでいえば、シカゴを中心とする米国の会員100社のうち70%を占めていると思います。そして、こうしたプロップハウスでは、これまでの先物取引一辺倒でなく、様々な種類のアセットクラスを取引するのもトレンドになっています。その中で、ヘッジファンドも含めて、最も注目されているのが金ではないでしょうか。

プロップハウスといえば、米国が中心ですが、イギリスにも?

プロップの最も大きなグローバルセンターはシカゴといえるでしょうが、ロンドンにも「アルゴショップ」があります。我々の取引所でいえば、シカゴの100会員ほど多くはありませんが、それなりの数に上ります。今回のTOCOMとの共同セミナーを開催したことで、日本の方々には、NYSE Liffe US の魅力を、欧米のトレーダーたちにはTOCOMの魅力を再認識していただければ幸いです。

有難うございました。

【インタビュー後記】
米国シカゴのプロップハウス・トレーダーの大多数が利用しているISVは何かと尋ねれば、大半の先物関係者が「トレーディング・テクノロジー社の『X_TRADER』」と答えるだろう。今回、TOCOMがOMXの最新プラットフォームを導入したことで、世界水準のスピードを実現したが、とはいえそれは、取引所直結のサーバーを持つ会員会社だけで、インターネットで取引する個人投資家にはまだ手が届かない世界が残っている。その辺を、個人投資家を顧客に持つ先物会社はどう考えているのかを取材したところ、驚いたことに、個人のセミプロトレーダー向けに、この「X_TRADER」を、社内の自己トレーダー同様、そのまま提供する会社が現れた。それも、「サヤ取り」で有名なあの山崎種二氏が創立したヤマタネグループのアサヒトラストという会社である。
「当社のお客様には、大量の取引を頻繁に行われるセミプロ・トレーダーの方が多いので、こうしたお客様に満足していただくために新たに「プロ・コース」を設け、『X_TRADER』の提供を始めました」と語るのは、同社の鍵和田均取締役だ。「そういう優秀な個人投資家の方がまだまだ多く存在するはずで、そういう方々に自己ディーラーと同じ取引環境を利用いただくことがTOCOMの市場活性化に一助にもなると考えました」(同)。インターネット回線とはいえ、同社の専用回線経由でダイレクトに市場につながる。手数料もプロ向けに安く設定しているそうだ。同社の場合は国内市場での取引が対象だが、個人投資家にもISVを直接利用できる環境が作られつつあることを NYSE LIFFE US の関係者が知れば、「まさに、それを待っていた」と言うに違いない。自己トレーダーだけでなく個人でも海外取引ができる時代がすぐそこにきている。
(聞き手:益永 研)